ウナギを守ることが社会のシステムを変える!?
研究者の研究は大きく分けて基礎研究と応用研究の2つに分かれています。
基礎研究は好奇心が動かす学問です。いわゆる研究者がこれをやりたいと思って進めていく研究ですね。これが一般的な研究のイメージです。
もう1つの応用研究は、使命をもって進める学問です。
基礎研究だとやるかやらないかを自分で決めることができます。そうすると到底無理なことには手を出しません。対して応用研究での喫緊の課題となれば、やらなければなりません。応用研究はゴールを持っているので、そのゴールに近づかなければならないし、そのゴールを達成するための手順を踏まなければなりません。
たとえば、保全生態学のウナギの話で考えてみましょう。
今、ウナギが食べ過ぎや環境が良くないせいで減っていると言われています。もしかしたら今の社会のシステムがウナギを持続的に利用できない状態なのではないかと考えられます。ということは、ウナギを持続的に利用するには社会のシステムを変えなければならない。
結果的に社会を変えることが保全生態学の目指すところです。
違う、という人もいるかもしれません。でも僕はこうだと思ってやっています。ですからメディアを通じて自分が正しいと思うことを発信することが大事だと思います。
その反面、専門家として科学に立脚しているために自分の研究も進める必要があります。その両輪がちゃんと動いてなければならない仕事だと思います。
放流でウナギが増えるかは分からない
1つは放流です。養殖場からウナギを買ってきて川に放流するのですが、放流してもウナギが増えるかどうかはわからないんです。増えないかもしれません。
理由の1つは、養殖場で育ってきたウナギは川ではうまく生きていけないかもしれないからです。養殖場に一度連れて行かれたウナギはもともと天然ですが、人が動かすと方向感覚が狂って元の産卵所にたどり着けないという研究があるんです。放流することで病気をまき散らす危険もあります。放流には様々な弊害が考えられるんです。
そもそも放流はあまりやらない方がいいんです。メリットが明確ではないのに弊害は想定されている。そのような放流を続けていることは危険だと思います。どういった形で放流するのが適切なのかを突き詰めていくと、放流は根本的に適切じゃないかもしれない。それを確かめるのが現在行っている研究です。
2つ目は違法な漁業や流通の問題です。
シラスウナギを養殖場にもっていくんですけど、その捕り方や売り方に違法行為が関わっています。違法行為が関わらない、すなわち透明性を高めるようなシステムを考えています。
さらに3つ目。ウナギをどれだけ食べていいのかの天井を決めないといけないですよね。
僕は統計の知識を持ち合わせていないので、それを持っている人と協力して研究が進むようにするのが僕のやらなければならないことだと考えています。
放流に関しては僕が実験研究を行い、他の2つはコーディネーターのような立場で行っています。何れにしても重要なことは、社会的な合意形成です。放流に関しては、合意形成に必要なデータを研究を通じて得ようとしています。違法な漁業や流通の問題、消費量の上限を設定する問題については、必要なデータを集めるだけでなく、関係者と話し合う場を作り、議論を進めていくことが重要です。
研究室を拝見!
ここで研究室にある様々なものを見せてもらいました!
研究で使用するものや、同僚の方が作成された魚の骨の標本などなど…
魚といっても口の形や目の位置が全く違うので、獲物の捕らえ方は様々!
普段見たことのある魚から珍しいものまでありがとうございました!
世界で戦える研究者になりたい
仕事をしているという実感が沸くのは、NGOや行政、マスコミや企業など異分野の方々と仕事をしている時、そして国外の人たちと一緒のときです。自分の世界が広がっている感覚が楽しいです。僕が研究者になると決めたときの1つの目標が、「世界で戦える研究者になりたい」でした。戦っているわけではないですけど、仲間ができ始めているし目標に一歩近づいている気がします。
忘れられない瞬間という視点で考えるとむしろ、タコを研究していた時の方が思い出があるかもしれないです。
研究例がなかったということもあり、どうしたらタコは音が聞こえたと言えるのか、という部分がすごく難しかった。そこでタコやイカが水を吸い込んで吐いてを繰り返すあのリズムを指標にできるのではないかと気づきました。
そこで研究室にあった心電計を使いタコの呼吸のリズムをグラフになるようにしました。音を聞かせれば変化が起こるはずだと思ったのですが、残念ながらうまくいきませんでした。
で、マダコを使っていたのをスナダコに変えてみました。そしたらなんとうまくいったんです。朝の4時くらいだったんですけど、ものすごくうれしかったですね。
すごくゾクゾクすること
自然の中には、元々自然の中にある隠されているメカニズムがあります。たとえばタコはどれだけ音が聞こえるか、といったことです。それって元々決まっているわけじゃないですか。それをどうすれば分かるのかは、巧い方法を見つけないと分からない。
でもその適切な方法を見つけて使うと、見えなかったものが見えてくるんです。それがすごくゾクゾクする。それはデータを取っている時にはわからないんだけど、取れたデータをグラフに直したりその数値を解析した結果、背後に隠されていたものが見えてきたりするんです。
実際にあるけれどもそのままでは人間には見えない。それを可視化していく作業がすごく面白いです。私の行っている研究は大研究者に比べたら小さいものですが、それでも見えてくるものは「世界で自分しか知らない」わけですよね。それはすごく興奮します。