翻訳には、実際に「訳す」以外のお仕事もあるのでしょうか?
リーディングという仕事があります。出版社が版権の取得を検討してる本を読んで、そのあらすじやセールスポイントをレポートにまとめる作業です。類似書の有無やターゲット層も考えます。出版社が、翻訳者や翻訳者志望の方に依頼します。
『わたしに会うまでの1600キロ』は、自らレポートを書きます!とお願いしたことがきっかけで仕事になりました。山歩きに憧れていましたし、アウトドア関連の本や映画も好きでしたし、なんといっても読んでみたらとても面白かった。リーディングをしたからといって必ず仕事につながるわけではありませんが、この本では絶対にやりたいという願いが叶いましたね。
カブを絞っても血は出ない!?
訳しづらいといえば、実はなんでも訳しづらいです(笑)。
たとえば「カーテン」「コップ」といったポピュラーな単語でも土地や文化が異なれば見えているものは違います。だから基本的に外国語は全部日本語になりにくいんです。毎日頭を抱えながらやっています。プロですから「これは日本語にならないよ...」とは言いませんが。
日本でいう「ことわざ」などは英語だとまた違う感じになりますか?
基本的に人間が考えることというのは似ているので、対応することわざもけっこうあります。『本末転倒』であれば『カートの後ろに馬を置く』といった具合にね。
『カブを絞っても血は出ない※』って聞いたことありますか?おもしろ言い回しでしょ?こういったものは直訳のままにすることもあります。その表現自体が面白かったからです。聞きなれないことわざゆえ、それだけで外国らしさが出たりしますしね。
※『You cannot get blood from [out of] a stone/turnip.』「ないものは出ない」ことのたとえ。
中学生がわかるようなことわざはちゃんと訳します。
誤訳してるように思われちゃうから(笑)。
翻訳家の職業病は、なんでも訳しちゃうこと
う〜ん。今流行していても5年後には消滅しているかもしれないじゃないですか。
だから私はなるべく定着している言葉で訳すようにしています。
英語を見ると、反射的に変換しちゃいますね。
映画やドラマを見ていると、このセリフは自分だったらどう訳すかな、と考えてしまいます(笑)。おしゃべりなので、会話を訳すのが好きなんです。たとえば同じ会社員でも、25歳の平社員が話す言葉と中学生の子供が2人いる45歳の部長さんがしゃべる言葉って違うじゃないですか。性別や年齢はもちろん、出身や経歴によっても異なります。それぞれの登場人物に当てはめて、人物像を作っていくんです。ワクワクします。いつかお芝居を訳してみたいですね。