春野家の家族は皆、春霞のようなモヤモヤを心に抱えている。
桜の舞う季節、長男の一(はじめ)は好きな女の子が転校してしまい、告白どころか声すらかけられなかったことを後悔していた。妹の幸子の憂鬱は、時々巨大な自分の分身がそっと現れては自分をじっと見下ろすこと。そんな時、親戚であるアヤノから"逆上がりをした途端に亡霊が消えた"という話を聞いて...
長閑な山間の小さな町で、季節は春から夏へと変化する。春野家の苦悩と青春は少しずつ形を変え、周囲と影響し合って、それぞれ成長してゆく。これぞ石川克人流、異色ホーム・コメディ。
茶の味
2003年 日本
監督・脚本:石井克人
2004年カンヌ国際映画祭監督週間オープニング作品
出演:坂野真弥、佐藤貴広、浅野忠信
映像作家・石井克人が4年の歳月を経て完成させた作品。
まず、この映画は手放しに人にお勧めはできない。人によっては大はずれだったと酷評する人もいるだろうし、心から求めていた最高の映画だと感動する人もいるだろう。つまりは、変人の映画なのだ。あなたに少しでも無意味を愛せる心や、変人の素質さえあれば、きっと楽しむことができるだろう。
"片思いの女の子が転校してしまった。告白どころか一度も声を交わしたことさえなかったことを、春野一(はじめ)は後悔していた。"
物語は冒頭、美しい山に囲まれた田舎の町を背景に、学ランを来た少年が桜の下に佇む場面から始まる。春野家の人々はそれぞれ、青春と苦悩を抱えている。
この映画の大きなテーマとして、春野家の成長というのがある。物語は春から夏へ季節が流れる中、彼らの関係も少しずつ、繊細に変化してゆく。
この映画の魅力は大きくわけて3つある。ひとつは、映画を観たあとも強烈なインパクトを残してくれる映像美だ。今までの映画の概念に捕われない突拍子もない映像のアイデア、視覚表現が満載なのである。額から発車する失恋列車、巨大な幼い女の子、白骨死体とうんこ、宇宙に咲く向日葵、歌、踊り、アニメーション...なんでもこのひとつの映画に詰まっている。ひとつひとつ意味がありそうでなさそうで、何故か少し心が暖まる。実に目と脳に贅沢な作品だ。
2つめに、この映画の醍醐味とも言える、圧倒的な日常会話のリアルさにあるだろう。私はこれに惚れてしまった。映画に出てくる人物や発言の内容自体は完全に変人たちの会話である。しかし、今まで観た他のどの映画よりも、現実味のある生々しい会話が物語中で繰り広げられる。現実にこういうやり取りがあってもおかしくないのでは、と思わせる表現力がある。
それは、言葉を詰まらせたり噛んだり、語尾に照れが入ったり、まさに力を抜いて思うままに会話している時の仕草なのだ。どこか甘さの残る学生同士の何気ない馴れ合いや、朝礼での校長の謎の詩の朗読、大人の男女の下らない痴話げんか、昔フラれた女の子との気まずいやり取り。